レタープレス(活版印刷)の手法を使ってデザインした、印刷物、ポストカードや手帳などのステーショナリーは、今やおなじみのアイテム。日本でもセンスのいいデザインストアやギフトショップなどで、よく見かけるようになりました。数多くある商品の中で、アルファベットのウッドタイプやメタルタイプを使用したものには、特にユニークなものが多いように感じます。タイプを選ぶこと、あるいは作ることから始まって、決まったサイズのフレームに、自らの手を使ってレイアウト(組版)をしていくという、ある意味制約がある中でのデザインワーク。だからこそ、デザイナーの感性と技量が、より一層問われるような気がしています。デザイナーによっては、こうしたタイプを手に入れるところから、じっくりとデザインを考え、作品として完成させる人もいます。単体でプリントしてもいいですし、複数をレイアウトをするときには、それを楽しみながら、まるで、BGMの音楽を聴きながら、音符を五線紙に乗せていくかのように、世界を作り上げていくのです。
もうだいぶ前になりますが、活版印刷のスタジオで、自分の作品を作る機会がありました。そのとき作成したのが、自身のイニシャルでもある、アルファベットの〝M〟のメタルタイプをたくさんあつめて、小さなフレームの中に収まるようにレイアウトした、丸いコースターです。大量のメタルタイプが収められた収納ケースから好きなものを取り出して使用するのですが、使用後の後片付けを簡単にしようと考えて、同じケースに入れられた、大文字、小文字の〝M〟〝m〟だけを並べてみようと思いついたのが始まり。この企みは、大成功。無数の〝M〟や〝m〟に向き合うことで、アルファベットの文字の個性に気付かされ、日頃出版の仕事で使用している”フォント”について考える良い機会にもなりました。