銀座に新しいロシアの食品と雑貨を販売するショップが出来たと知って、早速訪れました。店名は「赤の広場」。あまりに分かりやすいネーミングで、これなら、一度聞けば、思い出せなくて困る、などということはありません。
小さな店内には、まだオープンして間もないこともあり、ロシア人らしい女性の店員さんが3人ほどいらして、搬入とディスプレイの作業に忙しく手を動かしています。そのためか、ここが日本(東京)であることを忘れてしまうような独特の雰囲気が漂っていました。販売しているものは、ロシアの民芸品、マトリョーシカやキーホルダー、パッケージの美しいチョコレートの数々、それから、紅茶やチーズ、サワークリーム、ソーセージなどの加工食品。どれも小ぶりでそのものやパッケージデザインがカラフルなものが多く、棚やテーブルなどの什器にぎっしりと並んだ様子は、賑やかで心が踊ります。同時に、小さなものがたくさん集まってパワーを出しているような迫力があり、少し圧倒されたりもします。十四年ほど前に、雑誌の取材で、ロシアのモスクワを訪れた時にも、ショップや蚤の市で同じような感覚を味わったことを思い出しました。
ロシアの雑貨というと、私にはどこか‘くすんだ’という印象があります。‘くすんだ’というのは、決して悪い意味ではなくて、多色使いだけれども発色が抑えられていたり、存在感があるのに一歩引いている感じがあるという個性、ニュアンスでしょうか。ところどころが日に焼けて破けてめくれてしまったホテルの部屋の幾何学模様の壁紙、街中の食堂でいただいた薄く透き通った赤いビーツのスープ、蚤の市で三角巾をかぶったおばあちゃんが引きずるように運んでいた使い込んだ大きな花柄の買い物袋……。モスクワに滞在したときに体験した、こうしたビジュアルの記憶が、そう思わせるのかもしれません。今は、次にロシアを訪れる時に、この記憶がどのようにアップデートされるのか、確かめてみたい衝動に駆られています。